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【堀大河の私物collection】スンマ・ミク

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パスパの血脈が開眼する、忿怒の護符「スンマ・ミク」
━━ 睨みを利かせ、災いを寄せつけぬ守り神 ━━

◆ 帝師パスパの末裔、その当代との邂逅

パスパの血脈を継ぐ一族の当代、ロブサ氏。
先のスゥルド・プルバに続き、氏はもう一つの神具を私に見せてくれた。

布を開いた瞬間、私は思わず息を呑んだ。
そこにあったのは、牙を剥き、目を見開いた、恐ろしい形相の顔だった。
金色に彩られた顔面。真紅に染まった双眸の窪み。 剥き出しの歯列は、まさに何かを威嚇するかのように並んでいる。周囲は革で丁寧に縁取られ、長い年月を経た深い風合いを湛えていた。

「怖い顔でしょう」

ロブサ氏は私の表情を見て笑った。

「けれど、恐れることはありません。これは、あなたを守るための顔なのです」

◆ 長い歴史と「模造品」の話

この神具が作られたのは、20世紀の初頭から半ばにかけての頃だという。ロブサ氏の祖父が受け継ぎ、生涯にわたって手元に置き続けてきたものだ。

注目していただきたいのは顔の周囲を縁取る、この革である。

「この革を巻くという形。これはもともと我々の一族が始めたものです」
ロブサ氏はそう教えてくれた。

面をそのまま持つのではなく、革で包み縫い留めていく。
神具を傷から守るためであり、同時に、持ち主の肌に馴染ませるためでもある。
一族が代々受け継いできた、いわば「作法」だった。

ところがこの様式はやがて外へと流出してしまう。

「祖父の時代です。この形を真似た品がずいぶん出回ったそうです」

革を巻いた護符が力を持つらしい。そんな噂が広まると、見た目だけを模した品が次々と作られ、市場には夥しい数の「それらしい護符」が溢れたのだという。

だが、当然ながら形を真似ても、そこに宿るものまでは真似られない。革を巻いただけの品は、ただの装飾品にすぎない。
あなたが手にするこの「スンマ・ミク」は、その"元祖"にあたる一族が、 祖父の代から守り続けてきた本物である。
何十年も歳月が刻んだ革の風合いそのものが、何よりも雄弁にその来歴を物語っている。

◆ なぜ、これほど恐ろしい顔なのか

チベット密教において、忿怒の相、怒りの形相をした尊格は、決して邪悪な存在ではない。

むしろ逆だ。

その恐ろしい顔は外から迫る災いや邪気を睨みつけ、追い返すためのものなのである。
日本にも同じ発想の文化がある。
屋根や玄関先に据えられた「鬼瓦」がそれだ。恐ろしい鬼の顔で家を守り災いを寄せつけない。
日本の家屋や寺社の軒先で、今も睨みを利かせ続けているあの顔と、この護符の顔は、同じ役割を担っている。
つまりこの神具は恐ろしい見た目とは裏腹に、持ち主にとってこの上なく心強い守り神なのだ。

「顔が怖いほど、守りは強い」 ロブサ氏はそう言って笑った。

◆ 左目に灯された、開眼の光

よく見ていただきたい。
この神具の左目にだけ、瞳が入れられている。

これはロブサ氏自身が筆を執り、神具に魂を宿す儀式「開眼」を施した証である。
仏像や法具は作られただけでは、まだ「器」に過ぎない。
そこに目を入れることで、初めて魂が宿り、生きた神具となる。
洋の東西を問わず、聖なるものは「目」によって命を得るのだ。
そしてここからが、この神具の最も特異な点である。

右目には、まだ瞳が入っていない。

なぜか。

その右目に瞳を入れた「対の一具」を、ロブサ氏自身が手元に持っているからだ。

左目の開いたこの神具が、あなたのもとへ。右目の開いたものは、ロブサ氏のもとに。
離れていても、二つの神具は一対として結ばれている。
つまり、この護符を持つことで、あなたとロブサ氏は目に見えぬ糸で繋がることになる。

帝師パスパの血脈を継ぐ者の力がその糸を通じて、あなたのもとへと絶えず流れ込んでくる。
これが、この神具の本当の力なのだ。

「私が右目を持ち、あなたが左目を持つ。二つで一つの一対の目です」

ロブサ氏はそう言った。

「私が祈るとき、その祈りはこの子を通じてあなたに届きます」
護符を持つだけではない。

帝師の血を引く者の祈りが、常にあなたに向けられ続ける。

そう考えればこの神具がいかに得難いものか、おわかりいただけるだろう。

◆ スンマ・ミクの祀り方

◼飾って祀る
最も良いのは、目に見える場所に掛けて祀ることだ。玄関、書斎、居間。その恐ろしい顔が外から来る災いを睨みつけ追い返してくれる。
鬼瓦がそうであるように人の目に触れる場所でこそ、その力は最も発揮される。

◼しまって安置する
とはいえ、この形相を日常的に目にするのはどうしても落ち着かないという方もいるだろう。その場合は袋や箱に納めて安置していただいても構わない。
ただし、一つだけ守っていただきたい約束がある。しまって安置する場合は週に一度は数時間、外へ出していただきたい。この神具は閉じ込めたままでは力が眠ってしまうのだという。
定期的に空気に触れさせ、光を浴びせ、 その目に外の世界を見せてやることで力は保たれ続ける。

「この子にも、外を見せてやってください」
ロブサ氏は、まるで生き物を託すかのように、そう言った。

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